近藤駿介先生 ご講演概要
「第7次エネルギー基本計画:原子力界に対する期待と課題」
6月28日(土)、東海大学品川キャンパス2B101教室にて、工学博士 東京大学名誉教授であり、東海大学国際原子力研究所 所長、ならびに原子力発電環境整備機構 相談役を務める近藤駿介先生による特別講演会が開催されました。その講演内容の概要を以下に報告します。
ご講演ではまず、「第7次エネルギー基本計画」の全体像について紹介がありました。国内外の情勢変化、とりわけウクライナ情勢や中東情勢の緊迫化、またデジタルトランスフォーメーション(DX)やグリーントランスフォーメーション(GX)により電力需要が増加に転じると予想されるといった背景から、2040年に向けてのエネルギー政策の方向性が説明されました。そこでは、データセンターや半導体工場の新増設による電力需要の増加が予想される中で脱炭素社会の実現を追求するには、再生可能エネルギーや原子力などの脱炭素効果の高い電源の最大限の活用が不可欠であると強調されていることが紹介されました。
原子力発電に関しては、以下の4つの課題について詳細な説明がありました。
福島第一原子力発電所事故から14年が経過し、オンサイトではALPS処理水の海洋放出や燃料デブリの試験的取り出しなど、廃炉への取り組みが着実に進展していることが紹介されました。またオフサイトでは、避難指示区域の指定・見直し、特定復興再生拠点区域や特定帰還居住区域の整備、さらには福島イノベーションコースト構想の進展が取り上げられました。この構想では、産業集積の促進や「復興知」を活用した大学・研究機関との連携、福島をはじめ東北の復興を実現するための夢や希望となるものとするとともに、我が国の科学技術力・産業競争力の強化を牽引し、経済成長や国民生活の向上に貢献するべく設立されたF-REI(福島国際研究教育機構)の取り組みが紹介されました。
また、福島県での除染作業で発生した約1400万㎥の土壌・廃棄物のうち放射能濃度が低いものについては再資源化を目指し、再利用の実証試験が進められていること、放射性廃棄物に分類され、県外にて最終処分されるべき廃棄物については、さらに減容化することが検討されていることが報告されました。
課題2:停止中原子炉の再稼働と放射性廃棄物の管理・処分システムの整備
現在12基の原子炉が停止中であり、これらの再稼働と六ケ所再処理工場の竣工が喫緊の課題として挙げられました。国内で貯蔵されている使用済燃料の総量は19,000tに上るから、六ケ所再処理工場の稼働は、この管理のために必須であること、一方、その結果プルトニウムが毎年生産されることからMOX燃料の利用を推進すること、併せて、高燃焼度燃料の導入による使用済み燃料の発生抑制の推進も重要であることが指摘されました。
原子炉の廃止措置の実施に伴い発生する放射性廃棄物については、L1、L2、L3の区分に応じた廃棄物の処分やクリアランス金属活用に向けた取組を計画的に進めることが大切であり、このための最終処分場の立地に向けての取り組みが未着と言っていい状況にあるので関係者は覚悟を持って取り組むべきこと、再処理工場の操業に伴って発生する高レベル放射性廃棄物の最終処分場の選定については、段階的に取り組む制度が整備され、現在はその第一段階に着手したところであるとして、その現状、特に北海道2自治体(寿都町、神恵内村)における文献調査の経緯等が紹介されました。
また、こうした最終処分場の立地点の選定に際しては、従来の「手続き的な合理性」の追求にとどまらず、地域社会との共生のあり方に合意することを追求して地元同意(Social License to Operate)を得て、これを維持していく努力が必要であることが指摘されました。
課題3:既存炉の最大活用
現在の制度では、運転期間は原則40年、最大で20年の延長が可能になっています。これに関して電気事業法や原子炉規制法に基づく新制度の導入と、延長認可に関する審査基準の検討状況についての解説がありました。
課題4:次世代革新炉の開発
次世代軽水炉、小型モジュール炉(SMR)、高速炉、高温ガス炉、さらには核融合など、多様な革新炉開発が進められているが、大切なことは、それぞれの提案には、そのTRL(Technology Readiness Level)に応じて商用化までに乗り越えて行くべき「魔の川」、「死の谷」「ダーウィンの海」と形容される困難があることを踏まえて、挑むべき取り組みを議論することだとされました。
講演の終盤には、参加者からの質疑応答も行われました。修士課程の学生からは「北海道の自治体が手を挙げた際の教訓は何か」との問いがあり、近藤先生は「地元の同意が最も重要であることは当然として、それぞれの地域で文献調査に至った経緯や原子力に対する受容性が異なるため、得られた教訓を一般化することは困難であるが、あえて要約すれば、地域社会の一員として受け入れられるよう、対話を通じて信頼を築いていくことが重要ということだ」との回答がありました。
ご講演は2時間を超える熱の入った内容であり、最新のエネルギー政策から原子力発電の課題、地域社会との信頼構築に至るまで幅広いテーマが丁寧に語られ、参加者一人ひとりに深い示唆を与える機会となりました。
講演後は会場を移し、情報交換会が開かれました。そこでも近藤先生との自由な意見交換が活発に行われ、有意義な時間となりました。


